航海録
序にかえて→ふと思いついたこと、市場の潮流。航海の途上に書き留める覚え書き。
コアウィーブ・ショック、どこまで波及するか
AI向けにGPU(画像処理半導体)の計算力を貸し出すクラウド企業、コアウィーブの社債が売られている。10月14日、共同創業者が英紙に、投資適格の格付けを得て保険会社の「無制限」の資金を取り込みたいと語った前後から、売りが加速した。同日、2032年償還の社債は額面の8割を割り込み、株価は15.5%急落、週間では約25%値を下げている。翌15日には、デフォルトに備える保証料率(5年CDS)が10%を超えた。同社は借入れでデータセンター投資を続けており、4〜6月期の支払利息は前年の2.4倍、6.4億ドルに膨らんでいる。
インフレ指標の上振れで利上げ観測が強まり、この負担がさらに重くなるとの懸念が売りに拍車をかけた。経営陣は約1040億ドルの受注残が債務を十分に上回ると反論したが、売りは同業他社にも及んだ。ジャンク債全体でも、HY債スプレッドが14日に3.25%と3月末以来の水準まで広がっている。オラクルに続き、過剰な借入れでAI投資を支える構図そのものに、市場の目が向き始めているようだ。 →航海録一覧はこちら
米議会予算局の警戒シナリオを、現実の金利は追い越している
米10年債利回りは、9月30日に5.34%。10月の新規発行でも5.30%・30年債5.618%。CBO(米議会予算局)が2月に公表したベースラインの前提(2026年4.1%、2031〜36年平均4.4%)をすでに0.9〜1.2ポイント上回っている。この水準がこのまま続けばどうなるか。じつはCBO自身が、ほぼこの状況を想定した試算を9月24日の書簡で示している。連邦債務の平均金利がベースラインより最終的に1ポイント高い水準で推移した場合、2026〜2036年の累積で、利払い費を除く基礎的財政赤字はベースラインより約1780億ドル増加するのに対し、総赤字は約1.5兆ドル増加する。そのうちの約1.3兆ドルが、金利上昇そのものが積み上げる利払い費の増加分にあたる。
ちなみに、ベースラインが想定する2026年単年の純利払い費そのものは1兆390億ドル(GDP比3.3%)である。この想定は机上の空論ではない。2020年前後にコロナ対応で低金利発行された国債が、いままさに高金利の新発債へ置き換わりつつある(ロールオーバー)。この借換えを通じ、連邦債務全体の平均金利は9月末時点で3.531%(2009年4月以来の高水準)まで上がってきている。利息のつかないゴールドにとって、金利(実質金利)の上昇は逆風である。一方、その金利上昇が招来する利払い費の膨張は、ドルの信認に対する懸念という形でゴールドの追い風になる。現状はせめぎ合いが続いているが、この両者のバランスが崩れる刻限の到来は意外に近いかも知れない。 →航海録一覧はこちら
金準備を増やした国、減らした国
IMF届け出ベースの、国別金準備の増減データが更新された。WGCによる補正も一部含まれるデータファイルによれば、26年1月〜8月の期間で、金準備を増やした国はポーランド(97.8トン)、中国(80.2トン)、ウズベキスタン(48.2トン)、カザフスタン(36.1トン)、チェコ(14.2トン)が目につく。共通点は地政学リスクへの対応ではないかと思われる。反対に減らした国はトルコ(-81.6トン)、ロシア(-34.2トン)。トルコは、エネルギー資源をほぼ輸入に頼ることから、リラ防衛(買い支え)およびエネルギー資源輸入代金確保の観点から保有金を売却したものと思われる。一方のロシアは4月以降ほぼ6トンペースで売却している。長引くウクライナ戦争で財政が逼迫しているとされるが、それを裏付ける動きとも見える。アゼルバイジャン国家石油基金(SOFAZ)も1〜3月に21.9トンを売却している。ただし、こちらは中央銀行ではなく政府系ファンドで、金価格上昇により金の比率が投資方針の目標を超えたためのリバランスと説明している。それぞれの国が置かれている事情が、こんなところから透けて見える。
*中銀あるいは公的準備の増減データは、届け出の遅れや空白、集計元による補正の違いから揺れがある。地政学リスクの高まりのなかで、国際政治力学が影を落としているとも読める。留意しておきたい。 →航海録一覧はこちら
ひとり歩きするアラムコCEO発言、されど続く綱渡り
10月5日、ロンドンの「エネルギー・インテリジェンス・フォーラム」で、サウジアラムコのアミン・ナセルCEOは、商業在庫が「60億バレルを下回り」、「供給の余裕は恐ろしく薄い」と述べた。ただし、この発言が挙げる「開戦時に世界はほぼ100億バレルの石油在庫を抱えていた」という数字と、「商業在庫60億バレル未満」という数字は、スコープの異なる別カテゴリーの数字とみられ、その内訳を示されていない。ナセル氏は2022年にも同種の警告を発しており、世界最大の産油企業のトップが需給逼迫を強調する背景に、増産・高値観測を正当化する動機も疑われる。
とはいえ、綱渡りの状況そのものが作り話というわけではない。世界の原油生産のおよそ3割を占める中東では、操業停止の規模が2026年7月の日量500万バレルから8月には670万バレルへ拡大し、米エネルギー情報局(EIA)は開戦前の水準への回復を2027年第2四半期以降と見込む。世界最大の産油国である米国自身の戦略石油備蓄も、開戦直前(2月13日)の4億1540万バレルから9月18日時点で2億8455万バレルへ、半年あまりで3割強減少した。発言の数字は額面通りに受け取れないとしても、綱渡りの状況が続いていることに変わりはない。かくして、供給制約由来のインフレ圧力は続く。 →航海録一覧はこちら
格付け会社、AA-維持も米財政の軌道を「持続不可能」と警告
10月2日、格付け会社スコープ・レーティングスは米国の長期格付け(AA-、見通し「安定的」)を維持した一方、現在の財政軌道について「中期的な財政軌道は持続不可能であり、市場の信頼感や資金調達環境の変化への脆弱性を一層強めている」と警告した。同社は、財政赤字の拡大と金利負担の増加を背景に、債務の対GDP比が2036年までに160%に迫ると予測。10年債利回りは5%を超え2007年以来の高水準にあるとしており(10月3日時点の市場実勢では5.283%)、財務省が抱える41.1兆ドルの債務上限には2027年初頭にも到達する見通しだという。財務省の手元資金は約9470億ドルで、資金繰りの限界点(いわゆる「x-date」)までなお数カ月の余裕があるとされる。利息のつかないゴールドにとって利回り上昇は逆風だが、財政悪化に伴う信認低下と利払い負担の増大は追い風となり、せめぎあいは続きそうだ。 →航海録一覧はこちら
ハイイールド債は市場のカナリアか?
9月に入って、市場の軋みを示唆するデータが目につくようになった。顕著なのは、ハイイールド債スプレッド。米国債とのスプレッドは9月末で約3%、結果ハイイールド債の平均利回りはほぼ8%に達している。社債発行の供給過剰で債券市場が消化不良を起こしているとの見方も出ている。
ただ、供給過剰だけでは説明しきれない面もある。格付け別に見ると、最も低いCCC格以下のスプレッドは9月30日に11.79%と過去1年の最高を更新し、市場が大きく揺れた3月の水準を上回った。一方、B格は3.16%と、3月の高値(3.77%)をまだ下回っている。悪化は信用力の最も弱い層に集中しており、高金利の長期化に耐えにくい企業への警戒が広がり始めているようにも見える。 →航海録一覧はこちら
原油高・金利高、ハイテクの信用リスクに波及
IEA(国際エネルギー機関)の最新月報(9月分)によれば、2026年の世界の原油供給は中東・ウクライナ両紛争の影響で日量570万バレル(前年比6%)減少する見通しで、同月報は精製システムが限界に達していると警告している。ブレント原油は9月初旬の91ドル台から9月11日には一時110ドル近くまで急伸。9月29日には96ドル台まで反落しているものの、高止まりは続いている。
このエネルギー高がインフレを再燃させる中、米5年債利回りは9月28日に5.06%と2007年以来の5%台まで切り上がっている。ただ、利上げはドル建ての需要を冷やせても、ホルムズの物理的な供給制約そのものには効かない。
皮肉なことに、この金利上昇の矛先は、負債でAI投資を支えるハイテク企業にも向きつつある。CNBCが早くから「AI取引の炭鉱のカナリア」と呼んできたオラクルは、5年CDS保証料率が2%前後(約200bp、9月11日時点)と、S&PキャピタルIQのデータで2011年以降最高の水準に達しており、株価も直近ピークから6割近く値を落とした。原油とAI、遠く見える2つの市場が、同じ金利という導火線でつながっている。 →航海録一覧はこちら
AI投資が支える米国景気、どこまで持つか
米国でAIデータセンター建設への反対が広がっていることは、すでによく知られている。ギャラップ社の調査(2026年3月実施)では、地元での建設に71%が反対と答え、理由の筆頭は水や電力などの資源消費だった。7月にはニューヨーク州が全米で初めて、州単位で新規ハイパースケール施設に最長1年のモラトリアムを導入し、各地の自治体でも一時停止や禁止の動きが相次いでいる。
米国の景気と株価はAI投資に支えられているとの見方が強いが、建設面の制約に加えて、長期金利の上昇が資金調達コストと株価の評価の両面にのしかかりつつある。9月下旬にはHY債スプレッドや米国債ボラティリティにも上昇が見られる。好調とされる米国景気の土台がどこまで持つか、見極めが必要な局面に入りつつあるのかもしれない。 →航海録一覧はこちら
世界の債務365兆ドル、各国の長期金利急騰の背景に
国際金融協会(IIF)が発表した最新の世界債務モニターによれば、2026年上半期に世界の債務残高は10兆ドル超増加し、365兆ドルを突破した。なにより肝心なのは、先進国が国際的に取引される国債だけで支払った年間利払いは3.3兆ドル超に膨らんでいること。
これは世界のAI関連支出(2.6兆ドル)、防衛費(3.1兆ドル)、クリーンエネルギー投資(2.3兆ドル)のいずれをも上回る。米30年債、仏10年債、日本の10年国債——この夏から秋にかけて各国の長期金利が軒並み記録的な水準を更新しているのも、この債務の重みと無縁ではないだろう。IIF自身、「債務はもはやマクロ金融の問題である以上に政治問題と化している」と評している。 →航海録一覧はこちら
米30年債利回り、22年ぶりの水準に上昇
9月24日、米30年債の終値が5.47%まで上昇した。2004年6月以来、約22年ぶりの水準となる。市場予想を上回る9月の景気指標(S&Pグローバル製造業・サービス業PMIがともに好調)や原油高によるインフレ懸念、膨らみ続ける財政赤字への不安が背景にあるとされる。財務省はすでに最大60億ドル規模の長期債買い戻しに動いているが、それでも利回りの上昇に歯止めはかかっていない。
FRBウォーシュ議長は、利下げを求めるトランプ政権と、利上げを織り込み始めた市場との間で板挟みになりつつある、との見方も出ている。利息のつかないゴールドにとって利回り上昇は逆風、現在の米財政赤字規模と利回り上昇による利払い膨張は追い風。せめぎあいは続きそうだ。 →航海録一覧はこちら
