2026年9月9日から11月4日にかけて、米財務省は長期国債のバイバック(買い戻し)規模の倍増(20億ドルから40億ドル以上)を実施する予定である。30年債利回りが19年ぶりの高水準に達したことを受けたベッセント財務長官の決断とみられるが、市場の懐疑的な目は変わらない。
この動きの背景にある構造的な問題を、世界の中央銀行の中央銀行と呼ばれる国際決済銀行(BIS)が今年6月に公表した年次経済報告書で鮮明に描き出している。副題は「経済の進歩は、高まる脅威と向き合っている」。63カ国の中央銀行が参加するこの機関の報告書は、中央銀行家たちの総意に近いものとして市場関係者に受け止められる。
BISが「注意を要する四つの圧力点」として挙げたのは、インフレの上昇、AIをめぐる楽観論の持続可能性、金融の脆弱性、そして財政の悪化——これらが同時に積み上がっているというのが報告書の見立てだ。(p.1)
なかでも金融の脆弱性についてBISは踏み込んだ表現を使っている。ハイパースケーラー(巨大クラウド事業者)上位5社は2025〜2026年にわたり1兆ドルを超えるAI関連設備投資を予定しているが、その額はすでに各社の収益とフリーキャッシュフローを超え、社債発行で賄われている。チップメーカー、ハイパースケーラー、AIラボの間では、相互に出資し合い購入契約で資金を還流させる「循環取引」が広がっており、その実態は不透明だとBISは指摘する。そしてこう警告している。
「今回のリスクの再評価は——金利上昇によるものであれ、AIバブルの崩壊によるものであれ——企業信用の凍結を引き起こし、投資全体に広範な影響をもたらすという点で、同様に破壊的になる可能性がある。」(p.25)
財政の悪化も深刻だ。各国政府の債務はコロナ以降も増加を続け、名目成長率に頼って債務を安定させることも難しくなっている。国債市場の流動性についても警鐘が鳴らされている。その主因としてBISが挙げるのが、高レバレッジ戦略をとるヘッジファンドの国債市場への関与拡大だ。
「国債市場の流動性は長期にわたって十分に見えるが、突然消滅し、借入コストを押し上げる可能性がある。」(p.2)
バイバックの倍増を「焼け石に水」と市場が見る一方、皮肉にも問題の震源である米短期債をテコにしながら、テザー社がアルプス山中の核シェルターに金を積み上げ、各国中央銀行が静かに金を買い増している。その意味を、BISの警告はいみじくも構造的な背景として説明している。グリーンスパンが語ったとおり、金はいかなる時も受け入れられる。
