コインには、「表の顔」と「裏の顔」がある。同じことが、金(ゴールド)という資産にも言えそうだ。
1964年に1000ドルを投じていれば、2024年末には約5500万ドルに膨らんでいた計算になるバークシャー・ハサウェイをともに率いてきた二人、チャーリー・マンガーとウォーレン・バフェットは、口を揃えるかのように金保有を退けてきた。
マンガーは2012年5月、CNBCのインタビューでこう語っている。「金は、1939年のウィーンに暮らすユダヤ人家族が、衣服に縫い込んでおくには良いものだっただろう。しかし、文明人は金など買わない。生産的な事業に投資するものだ。」
1938年4月、ナチスはユダヤ人に5000ライヒスマルク(当時のドイツの通貨単位)を超える全財産の登録を義務づけ、出国の際には保有資産を外貨に換える段階で価値の9割超を失う仕組みを敷いた。銀行預金も証券も、国家に捕捉され目減りさせられる資産だった。つまり、衣服に縫い込んで持ち出せる金だけが、その網の外にあったと考えられる。
かたやバフェットは、2011年の株主向け年次書簡で、こう試算した。「世界の金の総量は約17万トン(注:2025年末時点では約22万トン)。これをすべて溶かし合わせても、一辺約68フィートの立方体にしかならない。」当時の相場でその価値はおよそ9.6兆ドル。「米国の全農地(4億エーカー、年間収益およそ2000億ドル)に加えてエクソンモービル(年間400億ドル超の利益を誇る、当時世界最大の収益力を持つ企業)16社分を買い、なお1兆ドルが手元に残る。」と。そのうえでこう続けている。「金を1オンス、永遠に持ち続けたところで、最後に手元に残るのは、やはり1オンスの金でしかない。」
二人の指摘は、正しい。金は利息を生まない。配当も生まなければ、家賃収入も生まない。それゆえ不胎化資産とも呼ばれる。農地は作物を、企業は利益を生み続けるが、金は、ただそこにあるだけだ。世界が平和な環境にあるならば、これは健全な考え方である。そして、この視点が示すところは、金が抱える最大の弱点でもある。
しかし、同じ性質を裏側から眺めると、評価は反転する。金は、誰の負債でもない。2022年、ロシア中央銀行が保有していた外貨準備のうち、およそ3000億ドルが欧米各国の制裁で凍結された。国境の外に置かれた通貨や証券は、相手国の判断ひとつで動かせなくなる。だが、自国内に積まれた金地金には、その介入の余地がない。「果実を生まない資産」であることと、「誰の負債でもない資産」であること――この二つは、実は同じコインの、表と裏の関係にあるわけだ。
マンガーが引き合いに出したのは、1939年のウィーンだった。その後、世界には和平が訪れたが、2020年代に入り二つの地域で苛烈な戦争が勃発し、いまだに続いている。しかも収束する気配を見せないどころか、世界中にインフレの種をばらまいている。すでに鬼籍にあるマンガーだが、いまの世界を見て、どう考えるだろうか。金についての見解は同じか否か、残念ながら知るすべはない。
出所:
・バークシャー・ハサウェイの60年間の運用成績(Statista)
・CNBC(2012年5月)
・Smithsonian Magazine(2018年4月)
・Berkshire Hathaway 2011年株主向け年次書簡
・World Gold Council「Are we running out of gold?」
・ロシア中銀資産凍結の状況(Brookings)
