「金を持っていないなら、歴史も経済も知らないということだ」

1975年にレイ・ダリオが興したブリッジウォーター・アソシエイツは、のちに世界最大級のヘッジファンドへと成長した。その経歴から、一見、金(ゴールド)とは無縁な人物に思われそうだが、金について問われるとき、ダリオの物言いに迷いはない。

2012年9月12日、外交問題評議会(CFR)の壇上で、ダリオはこう言い切った。「金を持たないのは、分別を欠いている。通貨を資産として持つなら、金を持たないのは道理に合わない。……仮に1割の金も持っていないとしたら、それは歴史を知らないか、経済を知らないかのどちらかだ。」(会場には笑いが起きたと記録されている。)

この確信の原点は、1971年8月15日にさかのぼる。リチャード・ニクソン大統領がドルと金の交換停止を発表した当時、22歳のダリオはニューヨーク証券取引所の立会場のクラーク(事務員)として働いていた。半世紀のちの2025年5月、ダリオは自身のX(旧Twitter)で当時をこう振り返っている。

「1971年、米国は資金が尽き、債務を不履行にした。ただし、そうとは言わなかった。金本位制からの離脱によって、それまで理解されていた意味での『通貨』は終わりを迎えた。株式市場は暴落すると予想していたが、実際には25%近く上昇した。私はそれに驚いた。」

同じ投稿でダリオはこう続けている。「調べてみると、まったく同じことが1933年にも起きており、まったく同じ結果を生んでいた」。

1933年といえば、世界恐慌下でフランクリン・ルーズベルト大統領が金保有を禁じ、ドルを事実上切り下げた年である。自身のニュースレター(2026年2月)でダリオは、金に紐づいた通貨制度が過剰債務で行き詰まるたび、政府は約束を破って通貨を増発し、その代償はインフレと金価格の上昇として現れる、と説明している。1933年と1971年——ダリオが「歴史を知らないか、経済を知らないか」と言う二つの断絶は、こうして彼自身の実体験と地続きになっている。

この歴史観の先に、金という資産の際立った性質がある。国債も銀行預金も法定通貨も、突き詰めれば発行者の「約束」にすぎない。金はそうではない。同じニュースレターで、ダリオは金が没収されにくい理由をこう説明している。「金は、誰の約束にも頼らない資産だ。だからこそ、政府であれ誰であれ、金を取り上げるのは難しい」。他のあらゆる通貨が、価値を持つために他者の支払いを必要とするのとは対照的だという。

2012年のダリオは、ポートフォリオの10%を金に充てるべきだと語った。14年後の2026年2月19日、同じニュースレターで、その比率を5〜15%に広げて重ねて勧めている。前年の2025年、保有株式を完全に売却し取締役会からも退いたが、経営から手を引いてもなお、金についての発言は止んでいない。同じ月、ドバイの世界政府サミットに立ったダリオは、通貨や資本が武器と化す「資本戦争」に世界は近づいていると警告し、金を「最も安全な通貨」と呼んだ(TheStreetの報道による)。

奇しくも、中央銀行が保有する「外貨準備+金」全体に占める金の比率は、2024年末時点で約20%に達し2025年末には金価格の上昇を受けてさらに27%まで伸びている。かつて一投資家が壇上で語った言葉を、いま国家そのものが後追いしている格好である。

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